何が好き?
よろず厄散の上がりかまちに腰を下ろして、蜂岡千里は手元のチョコをじっと見下ろした。
ハート型である。
解いたばかりの包みは桃色で、随分と可愛らしいものだった。
カードの文面もまた、何と言うか可愛らしい。でも大人だなと思う。子供ではないだろう。
さて、薬屋の結界の中、格子に隠れるように置かれていたこのチョコレートは店主宛と思って良いものだろうか?
狭い世界だ。買い物客の数も限られている。
首を傾げた。
誰だろう。
手に持ったチョコからは甘い匂いが上る。
誰だか知らない。
二月十四日から一ヶ月が過ぎて、店内の一角はホワイトデーの為に青く彩られている。ハートに代わり、今度は星型の風船がぷかりと浮いている。
「うん」
うん、お礼をしなければ。
飴が良いだろうか。
それともあの不思議な触感のマシュマロが良いだろうか。
女の人だろうか。男の人だろうか。
女の人だろうと思う。多分。
では甘い物が良いかな。
一休みと称してその場に座り込んだまま、蜂岡はひっそりと笑った。
これだからまだ、まだ大丈夫だよと思えるのだと。
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