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もんじゃの魂
 
 
 
 

蜂岡千里は笑顔=地顔が売りであり、好青年を好んで自称する胡散臭い男であったが、その日は機嫌が悪かった。
「なにか楽しいことはないかな、なにか」
火鉢の縁を煙管の先でこんと叩いて蜂岡が言った。どこかの斎原一月から返却されたばかりの煙管は、悔しいことに手に馴染む。
よろず厄散の店内は薬くさいが、蜂岡がどこからか持ち出した火鉢のおかげで暖かい。
仮冥界の温暖な気候に慣れきった篠田泰人は大きな身体を火鉢の前で縮めて温もりを享受しながら、「なんもねえよ」と用心深く答えた。
何しろ外は寒いのだ。追い出されてはかなわない。
そういえばすっかり忘れていたが、冬とは寒いものだったのだ。恐ろしい恐ろしい、ぶるぶるものである。
「楽しいことなんてそうそう転がってるもんじゃねえだろ」
「別にね、そんなに派手に楽しくなくても良いのだ。こう、心がほんのりと温かくなるような、そんな素敵な楽しさで良いのだよ」
だいたい、と蜂岡は店内を見回した。
よろず厄散は基本的に薬屋だから、店内風景は地味なものだ。
生薬を詰め込んだ薬棚の、みっちりと並んだ引き出しの渋い色合い。
硝子棚の中の薬瓶。
壁に添って吊るされた籠にも薬品が入っている。

地味だ。

「……鉄板が」
蜂岡が言った。
「無いねえ」
「そうだなあ!あってもなあ!薬屋には似合わないんじゃないかなあ!」
やや自棄気味に篠田が答えた。
もう展開は読めた。見切った!と心の中で叫びながら足掻いてみる。
「やっぱ薬屋は薬売ってんのが一番だよな!あとはお茶でも売ってればいいんじゃないかなあっ!健康にいいし!」
「鉄板はあちらに置いてきてしまった。何しろ、殆ど何も持ち出せなかったからね」
「そうかあっ!人の話聞いてるかー!?」
「闇もんじゃは楽しいよ。闇でなくても楽しいよ」
「……」
「何も一人で行けとは言わないよ。取ってきてくれた人には、なにかお礼をしよう」
ああ良心的だなあと蜂岡は眼を閉じる。
篠田は火鉢の前でぶるぶると震えた。

寒い。
正月なのに!

 
 
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