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蟇蛙の憧憬
 
 
 
 

私は彼女の履歴や心情について殆ど知るところがない。
ただ彼女のその皮膚の美しさや朴訥としてなかなか垢抜けぬ其顔立ち、言う言葉に少しだけ残る地方の訛りをきいて、
生国は東北の女なのであろうと胸底でひとり密かに見当をつけていた。
東北の女が如何にして此処まで流れ着いたのか。
紅も塗らない唇で彼女が笑う。
如何程の労苦が彼女の其身の上に降りかかったものかと、私は思いを馳せ、彼女の其の顔の中に秘密の手懸りを探す。
そうすると私の、私の醜く無遠慮な眼を厭うた女はたつた今迄笑みを形作っていた唇をいつも厳しく引き結んでしまうのだ。
白く小さな歯が唇の内側に隠れてしまえば、私は追い払われたノラ犬のような気分になるものだ。
厭わしいか。
其れほど迄に私を厭わしく思うものか。
なぜだ。

 
 
 
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