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学びの前提
 
 
 
 

 できないことはないだろうと片目の虚像が言って、微妙なとこだなと篠田は疑惑の声を水盤上の幻影に返す。
「前から言ってるけどさ、俺はやっぱり円卓の解体を押すね。衛士制のが連中には合ってる。このままの状態が続くなら尚更だって」
『いつまでも続かない』
「じゃあ尚更だろ。だいたい御方が何でそこまで此処の人間に肩入れするのかが俺には判んねえな」
『肩入れじゃない』
「じゃあ何だよ。義務なんかねえだろ」
『別に』
 鹿島が淡々と返して、そこで篠田も一度黙った。
 揺れる水盤の蜜色の水。
 どちらが良い悪いではなくて、状況と人間への向き不向きの問題だ。

 二人の声を聴きながら、蜂岡は唇を薄く開いた。
 唇から毀れた煙が鼻先に甘ったるい。
 煙は糸のように細く絡まりながら上り、天井の暗がりに薄白く蹲る。
 朱の煙管をぽんと叩いた。

「陽輔」

 呼ばれて鹿島は蜂岡を見下ろした。
 よく似た昏い目が三つ。視線が合う。
 一呼吸置いて、鹿島が重い口を開いた。
『……教えればいい』
「そう? でも、それでももう、本当に駄目なのかもしれないよ」

 だってもう、とても苦しい。

『いいや。まだだ。何度でも。解るまで』
 一を理解せずに十の結果を呼べるはずがない。
 ましてや一を知らずに百を望むべきではない。
 脆い世界の中でひとつずつ積み重ねる言葉だけが頼りなのに。
『繰り返せばいい。解らないのならば教えればいい。出来ないのではなく、解らないだけだ』
 何度でも。
 そうか、と蜂岡は喉で笑った。
 頑固な男だと思う。鹿島が心底でなにを考えているのかは解らない。

 うらぎりものめ。

「きみがそうしたいのならば」
「マジでかよ! あー!」
 あーあと篠田は頭を抱えて、かしこまりました御方と落胆の声を絞り出した。

 
 
 
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