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fatal-PM
 
 
 
 

2/5 PM 22:00 カフェ

奇術師は包帯だらけの手を組んで、楽しげにオセロ盤を見下ろした。
最近なにか、と正面の相手に声をかける。

「面白いことはありました?」
「そうねェ」

鷲鼻の男は難しい顔をして、今のところ黒が優勢を占めるゲーム盤に向き合ったまま唸り声混じりに返した。
これは黒白のみで構成された至極単純なゲームだが、なかなか深い上に気楽で面白い。
ワークパンツのポケットにはメモが入っている。
さてこれは面白いだけで済まされるものかどうか。
背後からそっと寄ってきた少女がテーブルの上にコーヒーカップをふたつ置く。
苺と兎の絵柄の、可愛らしいカップだ。
どんな趣味だこりゃ。
これが面白いだけで済まされていいのか。

(そんなはずは無いわな)

視線を上げると包帯だらけの顔を見て、なんもないねと首を横に振る。

「なーんにも。ないねェ」

ほんとほんと。

 
 

2/5 PM 22:00 櫻ノ杜

櫻ノ守は土の上に膝をついたまま幾度目かの無意味な言葉を繰り返している。
ふと見やった自分の、素足の爪先がまだ黒い。
ぞっとして開いた唇の隙間から笑い声が自然と溢れる。
両の掌で耳を塞いでも身体の内側に籠もる哄笑に、ああ、と息を落とした。
見上げれば花ばかりがいつも春だ。

 
 

2/5 PM 22:00 真理ヶ淵

水が赤い。
杯の門番は赤く濁った淵を右目で見下ろした。
かつて眼球を喰われ、以来閉じたままの左の瞼はぴくりとも動かない。
岸辺の土はぬかるんで、二日前についたいくつもの足跡に荒れている。

助かったのは子供ひとりだ。

子供ひとりでも助かって、良かったと思う。

二月三日のあの暗い道で消失した魂と、助かった子供と。
いったい何の差があったのか、と考えて、やめた。
筋違いだ。

片手を軽く上げる。
中空で待機していた水球がくるりと回る。
水は淵の中ほどへと移動すると、一度ぐっと身を詰めて震えた。

「さあ」

途端、水は自らの身を半分に割りながら淵の中へと墜落する。
割り裂かれた水の胎からほのかな光がいくつか零れて出て、ともに淵の中へと沈み行く。
灯りを失った淵にはすぐさま暗闇が訪れる。
静まり返った木々の隙間に、やけに生々しく水音が響いた。

 
 
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