TOP
ABOUT

Works
 ∟資料壱:characters
 ∟資料弐:logos
 ∟資料参:place
 ∟PBW版保管庫
Contact
LINK

 
 
 
 
森の奥、森の奥
 
 
 
 

蹲る。
木々を揺さぶる羽ばたきの音。上空を鳥影が駆ける。
膝をついた地面から冷気が這い上がってくる。
手のひらを地につけて体を支え、荒い息を吐き出した。
時折、ぎりぎりに絞られた気管支から悲鳴のような音が上がった。

もう少し。
もう少し。

まだ逃げられる。
もう少しだけでも生きていたい。

ひたりひたりと裸足の足音が追ってくる。どこか愉しげな歩調、根拠のない余裕と微かな狂気の滲む笑み。
その手に握られた太刀が鈍く光るさまを思うと、知らず目じりから涙が滴り落ちる。
太刀に付着した血を馴れた手つきで払いながらこちらを見下ろし、自分は正気だと言い放った。
正気だよ正気に見えない?狂ってなんかいないよ、まだ。

まだ!
喉を仰け反らせ哄った。

(逃げなければ)

木の幹を支えに、よろめいて立ち上がる。
斬りつけられた肩が酷く痛み、血を含んだ服地が肌に張り付くのが判った。

逃げなければ。
逃げなければ。
逃げて。

 
 

ぼとり、と肉が落ちた。積もった葉が肉の重みに音を立てた。
歩を進めるたびに落ちる肉が、腐臭を撒き散らした。
自分の体はどうやら腐っているようだった。
 
ギイィィィィイイ、イ、イ、イイイアアァアアアアア――――――

長く尾を引く悲鳴が木霊した。
一瞬の静寂。
それが誰の声かを気にかけることもなく、再び前進を始める。
落ちる腐汁が木の葉を濡らし、蛞蝓が這うような跡を作った。

 
 

ピクニックに行こう!
 
うん、お弁当作ってネ。俺も手伝うし!
森の奥?
知らないヨー。行ったことないもん。
でもきっと皆で行けばダイジョーブだと思うんだ。探検だよ!探検!!
俺は一緒に行くって言ってくれた人と一緒に行く。
道連れは多いほうがいいデショ?
一人でも多いほうがいいデショー?

約束!
俺の骨拾ってくれるって言ったよネ?

 
 

逃げて。
逃がしてあげて。
お願いだから、見逃して。
殺さないで。
奪わないで。
そんなむごいことをしないで。

 
 
 
どうやらきみは不要なようだ。
さよなら。
 
 
Top > Works > 森の奥、森の奥