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塚本圭太の場合
 
 
 
 

 塚本圭太は駄菓子屋の軒先に座り込んでいた。
 ソーダ味のアイスは夏の日差しに溶け出して、べたつきながら指先に流れ出している。
「あっっちー……」
 言わずもがなのことを呟くと、圭太は天を仰ぎ見た。学校指定の白シャツには、汗が滲み出ている。
 ぴかぴかの青空。白い雲は呑気に広がって、ゆっくりと流れていく。
 蝉の声。
 どこかで子供のはしゃぐ声。
 笑いさんざめきながら走りこんできた女の子達は、圭太の高校の下級生だろう。駄菓子屋の引き戸を少々乱暴に開けて、額を寄せ合いながらアイスのボックスを覗きこんでいる。
(あっちぃ……マジで、溶ける)
 軒先の、濃い影の中から動く気はしなかった。圭太はアイスの棒をくわえたまま、だらしなく壁に背を預ける。
「ん?」
 ふと違和感を感じて、指先を見た。
 圭太の指先。部活動で毎日のように球を握る爪は薄汚れ、ひび割れている。
 最初は赤い斑点だった。
 中指の先にぽつりと発生したそれは、あっという間も指全体を覆いつくした。声も出せずに凝視する圭太を嘲笑うように腕に、体中に広がっていく。
「なっ、なにが……!」
 圭太は叫び、立ち上がろうとした。
 引き戸が開いて、駄菓子屋から女の子が出てくる。にぎやかな笑い声。蝉の声。どこかで子供の声。
 
 たすけて――!

 ザッ、と耳元で音がした。
 崩れる、と思った。だがなにが?
(俺だ)
 俺が崩れる――。
 

「あれー、なにこれ。ねえ瑞希ぃ」
 瀬川恭子の呼び声に、岸谷瑞希は顔を上げた。アイスにかぶりついたまま、引き戸から顔を覗かせる。薄暗い駄菓子屋の外は、白い夏だ。
「なに?」
「これこれ。変な砂がいっぱい落ちてるの。こんなのさっきまでなかったよねえ」
 恭子が指差した地面には、くすんだ赤色の砂が広がっている。
「ね。おかしいでしょ」
「ただの砂じゃないの」
「えー、そっかなあ。でもここ、さっきまで誰かいたような気がするんだけど」
「もういいじゃない。ほら、行くよ」
「あ、うん」
 二人の少女が去ると、砂は穏やかな風に吹き付けられ、赤い砂埃をあたりに撒き散らしながら、いずこともなく散っていった。

 
 
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Tag: 塚本圭太